「寄り添う力」が分娩に与える影響:立会い出産と母体の科学的知見


近年、立会い出産は単なる夫婦の感動体験としてだけでなく、母体の心身にポジティブな影響を与える医療的なサポートとしても注目されています。科学的な研究、特に**「ドゥーラ効果」**に関する知見から、パートナー(ドゥーラ=出産支援者)が寄り添うことのメリットは明確になっています。

立会い出産におけるパートナーの存在は、母親の痛みの感じ方、分娩の進行、そして医療介入の必要性といった、出産結果そのものに良い影響をもたらすことが示唆されています。


1. 分娩時間の短縮と正常分娩率の向上

パートナーによるサポートは、母親が精神的な安定を得ることで、体の働きをスムーズにする効果があります。

  • 分娩所要時間の短縮: 継続的なサポート(ドゥーラ効果)に関する研究では、分娩中に医療者以外の信頼できる人物が付き添った場合、分娩所要時間(陣痛開始から出産までの時間)が短くなる傾向が報告されています。これは、精神的な緊張が和らぎ、リラックスすることで、出産に必要なホルモン分泌が促進され、子宮収縮がスムーズになるためと考えられます。

  • 医療介入の減少: 継続的な付添いがあった場合、帝王切開や吸引・鉗子分娩の頻度が有意に減少し、自然経腟分娩が増加したという報告があります。これは、精神的な安定によって母親が自らの力で出産に臨みやすくなったこと、そして付添いによって陣痛緩和ケアが多く提供された結果と推測されます。


2. 疼痛(とうつう)緩和と鎮痛剤使用の減少

出産時の疼痛は、不安や緊張によって強く感じられます。パートナーの存在は、この痛みに対する母親の感じ方に直接作用します。

  • 不安による疼痛の増幅を防ぐ: 人は強い不安を感じると、痛みを和らげる脳内の物質(エンドルフィンなど)の分泌が抑制され、痛みに敏感になります。パートナーが手を握ったり、背中をさすったりといった非薬物的な鎮痛サポートを行うことで、母親の不安が軽減し、痛みを乗り越えやすくなります。

  • 鎮痛剤使用頻度の減少: 継続的なサポートがあった場合、硬膜外麻酔などの鎮痛剤の使用頻度が有意に減少したという研究結果が出ています。これは、パートナーの存在が精神的な支えとなり、痛みに耐える力(対処能力)を高めたためと考えられます。


3. 産婦の満足感と産後のメンタルヘルスへの影響

立会い出産は、単に出産時の身体的な結果だけでなく、出産経験全体に対する母親の感情にも良い影響を与えます。

  • 出産経験に対する満足感の向上: 分娩中に孤独を感じることなく、信頼できる人に励まされ続けたという経験は、「自分は愛されている」「二人で頑張った」という達成感と満足感につながります。一方で、立会いを希望していたにもかかわらずできなかった場合、出産時のケアに対する満足度が低くなる傾向が示されています。

  • 産後のメンタルヘルス: パートナーからの献身的なサポートを経験することで、妻は**「この夫は、この先も自分と子どもを支えてくれる」という強い信頼感**を抱きます。この夫婦間の信頼と情緒的なサポートは、産後のホルモン変動による不安定な時期において、産後うつやメンタル不調のリスクを軽減する重要な要因となると考えられています。

結論として、立会い出産は、妻にとって「心強い」という感情的なメリットに留まらず、分娩の進行や医療介入の頻度といった客観的な出産結果にも好ましい影響を与える可能性が高い、科学的に裏付けられた有効なサポート方法の一つと言えるのです。